Super Utility Darling
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第3回

 

その頃、俺こと御柳芭唐は駅のトイレを出てふらふらと歩いていた。
やっぱりこの人が妙に男にモテるってのは間違いのない話のようだ…。さっきの出来事を思い出すと俺は身震いをした。

話は10分ほど前に遡る。


俺はトイレの便器に腰掛けて頭を抱えていた…。

録先輩に腹痛いと言った手前と、下手に知り合いに遭遇する前に対策を練る意味を兼ねてトイレに引き篭もったはずなのに、「屑桐さんになった記念♪」等と言いながら他人の体で勝手に抜いてしまった。ま…誰の体でやっても大して変わりねえな…フッ

―――小粋に肩を竦めてみたりしたが、空しいだけだった。

「何やってんだ俺はーー!!」

グシャグシャと頭をかきむしって溜息をつく。
だいたい本当の屑桐さんは今どこにいんだよ…まさか普段通りに学校へ?
ていうかさ、屑桐さんは「屑桐さん」なんだよなぁ?じゃあ「俺」はどこに居るワケ?まさか学校とか居なくて一年の御柳芭唐は今日もサボりってことになってるわけ?(理不尽だ。)
それとも、ま、まさか屑桐さんが「俺」に…不気味なんだけどソレ。

考えをめぐらせてもどうにも分からない。うう〜、とにかく学校に行くのだけはナシだ。
今は目立たないように行動しつつ放課後になったらテキトーに張り、屑桐さんか「俺」をひっかけて…なんとかしよう。コレで良し。

恐ろしく適当な作戦を立てると、俺は勢いよく便器を立ち上がり、意気揚揚と踏み出した。
しかし、軽快に個室のドアを開け放つとそこには、ボブ・サップみてーなマッチョな外人が立っていた…。

うわっデカっ。
コイツと喧嘩したらマジ勝てねーだろうなー…。
ていうか見てるよ、見てる、コッチ見てる。嫌だなー誰も居ないと思ってたのに、俺が中でシてたの聞こえてたんじゃねえの?出よ、さっさと。

水道のところまで突っ切ると適当に手を洗う。だが、がしっと肩を掴まれてふと顔を上げると、ソイツが真後ろに佇んでいるのが鏡に映って見えた。

ヒィッ!俺に何か用でも!?
鏡の中で眼が合うが、なんと言うかあまり友好的な雰囲気は感じないというのが正直なところだ。
しかもなんか腰のあたりにドーグ押し付けられてるような。悪いけど多分一銭も持ってねえよ、屑桐さんだから…。
しかしどうしよう、とりあえずこの状態から顔面に裏拳叩き込んで、怯んだところをキンタマ蹴り上げるか?いやしかしもし倒れなかったら…俺コレに殴られたらマジ3メートルくらい吹っ飛ぶ。こんな時のために普段からカバンにさり気なく鉄板を仕込んでいるのだが、今日に限って屑桐さんになっているので持っていないのは不運だ。

一人でテンパっているとその外人は俺にゆっくりと優しく語りかけた。

「Hey, boy……………are you ok?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

英語はよく分からない。
が!!なんだそのアブナイ視線わああ!?コイツまさか!?
っていうか、さっきから腰に当たってんのはッ

オマエのナニかーーー!!

「Nooooooooooooooooooooooぁぁぁああああああああ!!!!」

そういえば、ココのトイレには昔から「個室から妙な声が聞こえる」という気味の悪い噂が流れ飛んでいたのだが、まさかそういう理由だとは毛の先ほども考えていなかった。
中で悠長にオナニーしていた俺はどうやら彼にとてもヤバイ勘違いをされたらしい。
違あああああう!!!
俺は屑桐さんは好きだが、男が好きなわけじゃない。
思わず肩にかけられた手を振り払うと、出口に向かって猛ダッシュを試みる。が、思い切り制服の襟を掴まれたので俺は逆につんのめった。
体勢を崩したところでそのまま個室の方に向かって引き摺られる。ギャー!俺レイプされるぅぅ!!!
どうでもいいけど男vs男でも強姦って成立するのだろうか…瞬間、『被害男性は肛門裂傷の障害を負わされており…』という明朝体の文字が軽やかに脳裏を駆け抜けたが、涙が出そうになったので深く考えるのはやめた。

有らん限りの力で抵抗しつつ後ろを覗うと、男はターミネーター並のクソ力で引っ張りつつも打って変わって人の良い笑顔をたたえてこう言った…。
rn@496f2,@.:qn#$。」




なんて言ってるかわかんねえけどオマエ今絶対嘘ついてるだろ!?イヤ説得力全然無いから!
「OK,ボーイ。痛くなんかしないよ。俺テクニシャンだから」とか言ってるのかもしれない。冗談じゃねえよ!
コイツヤバイ、絶対。
なんかもう日本の法律とか多分通用しない。むしろハンムラビ法典ぐらいなら大丈夫かも…そんな感じ。バビロン王朝なら何とか出来る(意味不明)。(この場合、「目には目を」の論理に従うと掘られた俺は掘り返せることになるが、まっぴらごめんだ)

あまりの出来事に正常な思考能力をすっかり失っていると、突然背後から股間を握られた。
「ぎいやあああああ!」
襟の後ろを取られているので軽く体が持ち上がる。こんなデカイ男子校生持ち上げるなんて本当に只者ではない。そのまま個室に連れ込まれるとバタンとドアを閉められた。

その後はまあ…想像に任せる。
正に起きながら見る悪夢という様相を呈していたが、ソイツがふっと気を抜いた瞬間に、

「いい加減にしやがれ!!」
みしっ。

ということで、半泣きになりながら、ドアを蹴破って逃走してきた。


一体なんだったんだ…。
まあ確かに屑桐さんがどうもそれっぽい人に好かれる傾向は有るような気がしてたんだけどなー、桜花のおやっさんとか。(だいたい俺までまとわりついてる始末だし…)
まあ屑桐さんになって他の男にヤられてみるというのもそれはそれでファンタスティックな経験に思えたが、やっぱ屑桐さんが俺以外の男にヤられるなんてイヤだし、そもそも仮に何かのはずみでバレたりしようものなら真剣に半殺しにされそうだったので止めておいた。何より俺の人生観が変わってしまったら困るし…(おぞましい)。

つーかアイツ追いかけて来てたらどうしよう…落ち着かずに後ろを見回してみたが、そろそろ通勤時間も過ぎようという時刻の駅の改札近辺は、学生がチラホラと、それ以外にも若い人が多少歩いているくらいでそれらしい人影は見当たらない。ひとまず胸を撫で下ろした。
それにしても最早駅の周辺に居ることも出来なくなってきている。何かの呪いか?



――――――呪い………。
何か思い当たることが有るような。
いや、別に誰かに呪いかけられるようなことをしたわけじゃねーぞ?(今までの人生、ある意味では散々してるけど)
そうじゃなく、こうどっちかって言ったら御利益とかそういう類の…。うーん。

ハッと眼の前が明るくなった。
そうだ。何で今まで思い当たらなかったんだろう。

それはほんの一週間ほど前に交わした会話だった。その内容を、俺は急激に思い出していた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

話は九日ほど遡る。
俺はヤボ用というやつで久し振りに遠い親戚の家まで来ていた。
ココは今俺が住んでいる所とは違って、同じ県内だがかなり広大な敷地にすげーでかくて立派な家が建っている。本家ってヤツだな。俺は絶対住みたくないけど。

まあ住んでいる人間がヤバイのもさることながら、家がヤバすぎ。
先ず、暗い。林というより森ぐらいまで進化した木々が家を覆ってる。光ひとすじも射さねえ。
そして民家なのに築百年くらい。古すぎ。
敷地内には朽ち果てそうな社。謎の鳥居。そんなんだから当然近所付き合いは皆無。
近隣住民からは密かに悪魔の屋敷と呼ばれている。イヤだろ?

まあそんな屋敷だけど、小学校にあがるくらいまでは俺も暫くここに居たときが有って、遠い遠ーいやっと血ィ繋がってる?みたいな親戚の姉ちゃんに世話を見られていた。
それが今眼の前にいる女だ。
二十畳ほどのだだっ広い客間の中心で、俺と夜摩孤は向かい合っていた。

『さ、芭唐さん、お座りになって』

古い家屋のしんとした空気の中、狐のような高い声に促されて俺は分厚い座布団の上に胡座をかく。

『…で、用って何だよ?』


『ホ。お分かりでいらっしゃるくせに』

『なんでいちいちアンタの心中が読めることになってんだ?』

『華武高校に入学されたのですって?(流す)酷いですわ…。わたくし春からは芭唐さんと同じ高校に通えると思って楽しみにしておりましたのに』

『……。俺はアンタと同じ学校に通うのはゴメンだよ。大体あんな(野球部が)死に体の高校誰が。俺弱えヤツとつるむのイヤだしね?』

『そんなぁ…、十二支には牛尾様という知性と人格と美貌に資産を兼ね備えたスーパーユーティリティーなスラッガーが居るんですのよ?付き合…つるむのならわたくしこういう方かと思いますわ。
その点芭唐さんはお顔はとても素敵なんですけれども知性と人格という点で足元にも及びませんわね?資産も有りませんわね?』

『…………殺すぞ。
 言いたい放題言いやがって、二重人格狐女。大体コッチには牛尾なんざマッパで土下座する、屑桐さんっていう知性に実力に人望に加えて案外家庭的だったり意外に手先が器用でドキドキしちゃったり夜は夜でアッチのほうも最高みたいな魔性の魅力を兼ね備えた超高校級怪物投手が居るの!牛尾なんか目じゃねえの!』

『確かにそちらの主将様はしっかりしていらして、男性としての魅力もありますし凄い球もお投げになりますけどもやはりわたくし殿方は資産を兼ね備えてこそだと思いますから…。
 あ、芭唐さんみたいにお顔ばかり良い人は若いうちはおモテになりますけど、女というのは歳をとったら顔が良いだけでお金も持ってないような殿方は普通に相手にしなくなるものですわ。貴方も覚悟なさらないと後で困りますわよ?』

『余計なお世話だよ!!!久し振りに会ったけどアンタって本当にムカつくよ…。それと屑桐さんのこと貧乏って言うなーー!!大体なんなんだよ?資産、資産って。女って最悪だな』

『女が金持ちを好きなのは殿方が美人をお好きなのと同じですわ。
 …芭唐さんの隣にはいつもモデルかと思うくらい見目麗しい女性しかいらっしゃいませんわね』

『なんで知ってんだよ!!!
 とにかく十二支は嫌なの!俺は屑桐さんの居る華武だから野球やンだよ…ハッ、十二支で野球やったら負けるために試合やるようなモンだな?』

『…試合の前日には護摩壇を焚いて相手校がお力を発揮出来ないようにこのわたくしが祈祷しますから、負けることは無いと思います…♥』

『めちゃめちゃ怖えよ!!!!!イレギュラーな手段で事物を遂行しようとするのはやめろよ!!ハー、本当にアンタと話してるとロクなことになんないし。ていうかこの一族が嫌なんだよ。すぐに御祓いとか祈祷とか始めて…。そんなんで試合の結果とか物事変わったりするワケないだろ?頭おかしいんじゃねえの?』

『あら?そんなことをおっしゃいますと神罰が当たりますよ?祈祷には神様に働きかける力が有るのです。芭唐さん、貴方もよく…お分かりでしょ?』


『うっ………』


と、俺はここで黙った。
確かにこの一族、代々そういう系の家系で、本家なんかはもうバリバリ。シャーマン。祈祷なんかもその効力を猛烈に信用している人が、たっかい金積んでやってくるしね…。俺も正直ちょっとくらいは「これは」と思い当たる節が…。
イヤ、ここは引けない。この女相手に譲歩は禁物だ。なんせここの女共ときたら、血が濃いのかなんなのか知らないが全員同じ顔で同じ二重人格。裏表が激しくて家の男は必ず自分の思い通りに動かせると信じてやがる。そんな女に言いくるめられるのは、たとえ内容がどんなんであろうと腹立たしいことこの上ない。


『…信じねえな、絶対。』

俺は語尾に力をこめて言い放った。

『まあ!信じられないとおっしゃるの?…分かりました。芭唐さんは将来ここの後継ぎとなるお方、わたくしがお手本を見せて差し上げますわ。ですから、そう…。
では、欲しいものを一つ、何なりとおっしゃってくださいな』

えっ…?今何かさらりと爆弾発言がなされなかったか…?まあいい。深く考えるのは止そう(頭痛いから)。


『欲しいものをひとつ…欲しいもの……じゃ、屑桐さん』


『おんしゃあ頼むものは其れかい!!!もっと他にマシなアレはないのか?こう…監督を消したいとか…』

『思いっきり呪殺じゃねえかよ!!いくら俺でも神の力でいきなり殺人クリアーしたくはねえよ!俺が欲しいのは屑桐さんだけ!それとも何?出来ないの?屑桐さん』

『む……、儂の祈祷に不可能は無いわ。心配せんでもお宅の主将さんをちゃあんとオマエのモノにしたるけえのう。フッ…首を洗って待っておれ、小僧!!!』


そう言うと、夜摩孤は凄まじい高笑いを響かせながら長い廊下を歩いて去っていった…。
バサバサバサ―――――ッ、カァ、カァ、カァ―――――……
大量の羽音と共に何羽もの真っ黒な鴉が空に飛び立ち。
そして、開け放たれた縁側から生温い風が、俺の頬を撫でていった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


そう、あの日からどのくらいが経ったんだろう。

正直。
すっかり忘れていた…。
まあ、別に次の日だって特に何も起こらなかったし、元々信じていないからそれ以来サッパリ思い出すことも無く…、時は過ぎ去っていたのだ。平穏な日常と共に。

が、今、思い出した。

屑桐さんになっちまってるこの状況で。
つまり、その…屑桐さんを「オマエのモノにしたる」というのは、…まさか、そういうことなのか?
確かに今屑桐さんの身体は毛の先一本に至るまで俺の支配下にありますけどね?

両腕がワナワナと震える。(…やられた、あの女に………)

こんなにコソコソしまわって…、トイレでホモに襲われて…、なるほど、全てはあの女狐の呪いによるものだと……。
「フフ…フ……」
なァにが、「何でも欲しいものが手に入る」だよ!?今日一日、思い出すだけで涙が止まらねえよ。

いくら屑桐さんの身体を支配下に置いているとしても。
「あンのクソ女(アマ)は…!!!ブッ殺してやるァァァーーーーーーー!!!!!!!」


俺が俺でなくなってたら意味ねーーーーーーーーーーーーーー!!!!!

 

→To be continued