Super Utility Darling
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第2回

 

朝の陽の光の射す1年C組の教室の中、屑桐無涯は苦悩の表情で芭唐の座席に座っていた。
チュンチュンチチチと雀達のさえずる声が聞こえる。

朝、起きたら…御柳になっていた…。
とりあえず御柳の体で学校をサボるわけにもいかないので登校するにはしたが、ヤツになりきって練習する気も起きず、結局朝の自主練には参加しないで教室に来てしまった。
だがしかし、――幸い時間が早いので教室にはまだ自分以外の誰も居ないが――やはりクラスメイトやら何やらが登校してきたら一日中御柳を演じ続けることなど到底不可能な気がしてきた。
とにかくH.Rだけでも出席しておいて、後は適当な理由をつけて早退でもするしかない。何をしに来たのか全く分からないが無断欠席するよりは良いだろう。


その時、突然教室に人が入ってきた。

き、来た…。まあ良い、どうせアイツが同世代に対してそれほど社交的にしている筈がないからな、教科書でも読んでおけば話し掛けてくることは無いだろう。
教科書を読むという行動は御柳としてかなり間違っているような気もするが、手ごろな雑誌も目に付かないし(カバンの中にもしかしたら入っているかもしれないが)、四の五の言ってはいられない。
さァて教科書、教科書……。

なっ…一冊も入っていないではないか!重いと思ったのは5キロの鉄アレイか!!
何故鉄アレイを持ち歩く必要があるのか全く分からない。
その上、何故カバンに鉄板が入っている!!??
全くもって意味不明だ…。お前のカバンには勉強するものは何も入っていないのか!?

結局文房具と呼べるものはペンケースとルーズリーフしか入っていなかった。
なんというやる気の無い…。
お前のカバンの中は殆ど鉄で構成されているではないか!紙よりも鉄なのか。そうなのか。
全く…華武校野球部は代々文武両道と言われてきたのに…。嘆かわしくて監督にもOBにも顔見世出来んわ!
そんなことを考えつつ一通り悲嘆にくれていると、なんとさっき教室に入ってきた生徒が隣の座席に座ってきた。


「オッス、御柳。今日早いな?」
だ、誰だ!?せめて野球部の一年でもやって来てくれれば良いものを…コイツが誰なのか、全く分からん。
とにかく、適当に話を合わせるしかないので「ン、ああ、ちょっとな…」などと本当に適当な相槌を打ってみる。ああ、もう本当にこれ以上誰も来ないでくれ。こんなふうなヤツがあと4人も5人もやって来たら、正直とてもじゃないが対応出来ん。
「無茶苦茶珍しくねー?オマエいっつも遅刻かギリギリじゃーん。あ、野球部の朝練有る時は違うか。今日どうしたの?違うの?」
「ん。あー、…体調悪くなったから抜け出してきたんだよ」
「マジかよ!?鬼の霍乱?つかさー、オマエも高校で野球部入ってから随分落ち着いたよなあ。中学で俺と一緒だった時は色々無茶して楽しかったよな。中学の野球部って練習それほどキツクなかったしなー」
なるほど。コイツはどうやら御柳の中学時代の部活仲間らしい。
しかしコイツが一野球少年だったとはとても信じがたい外見だ。
もし弟たちが将来このような若者に成長してしまったら、俺は泣く。
「んで卒業式の時とかさ、ムカツいてた上級生皆でシメあげたよな?尿道に爆竹しかけて晒しモンにしたことも有ったよなあー」

心底懐かしげな瞳で昔を振り返るそいつをよそに、俺はそれどころではなかった。今の日本の社会は間違っている…最近の若者は年長者を敬う気持ちが欠落していて恐ろしい限りだ。俺もこういった復讐に怯えなければならないのだろうか…親父狩りに怯えるサラリーマンのようだ…。
「ッゴホン。そう…だったか?あ、いや、そんなことしていたか?」
「オメーが率先してやってたんだろ?」
俺かよ!!!!!!
思わず叫びそうになったがそこは堪えた。それにしても御柳の馬鹿め、中学時代どれほどの悪さをしているんだ…まあ今問題が無ければオールオーケーなのだがな。
気がつくとぽつぽつと教室には生徒が増えてきている。早くH.Rになってくれ。コイツと話していてもロクなことにならない予感しかしない。
「まあ良いや。よぉ煙草有るから便所行こうぜv」

ああ、もう眩暈がしてきた。
こんの、アホ者がぁぁぁ!!!もし、御柳の校内での喫煙がバレたりしたら、野球部もろとも部活停止くらってもおかしくないわあ!オマエが一人で吸え!!
我が華武高野球部が身柄を預かっている限り、コイツ(御柳)に喫煙の自由は無い!!以上。
…と今度こそ叫びたかったがやはり堪えた…。
「す…すまんがさっきも言ったとおり気分が優れないのでな。遠慮しておく」
「そうなのかあ?珍しいなオマエ。二日酔いでゲロ吐いた後でもスパスパ吸ってるくせによ」
今日は付き合い悪いなぁ〜、と言わんばかりにつまらなそうな顔をしながら、そいつは爆弾発言を弾き出した。
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ブチッと血管の切れる音が、何処かでした。
御柳、お前は俺が最近「よもや喫煙などしてはいないだろうな!?」と問いただした時…
「勿論吸ってませーんvv」などと
満面の笑みで答えていただろうがぁぁ!!!この馬鹿の世界新記録がぁぁぁぁ!!!

いっそこの鉄アレイで今現在問題大有りのドタマをかち割ってやりたい衝動に駆られたが、今御柳の体に入っているのは自分なので冷静に思いとどまった。くそう、あの馬鹿は一体今何処にいるんだ!?学校に来ているのか??
……そうだ、冷静になればなるほど、今奴は何処で何をしているのか。俺がここで御柳をやっているということは、奴はまさか俺になってどこぞに居るのだろうか…。
寒気とも怖気とも言えない薄ら寒い何かが背中を駆け抜けて行った。
冗談ではない、一体どういうわけなのかはさっぱり分からないが、ヤツが俺の体でふらついているなど死ぬよりも最悪だ。いや、大人しく学校に来ている可能性も無いわけではないが、その場合は…もっと駄目だ。

そう考えるともう居ても立っても居られず、
「やっぱり、俺気分悪い!!帰る!」
そう叫んで、俺は教室を飛び出した。