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序章>side屑桐

 

ヤツは突然現れたのだった。

俺の名は屑桐無涯、華武高校野球部で主将を務めている。
まあそもそもがウチの野球部は、どこかの落ちぶれた名門とは違ってハナから実力至上主義「のみ」で生き残ってきたところだから、そんなところに好き好んで集まって来るような連中はどこかしらアクの強い人間ばかりなワケで。
もはやそれが校色、とでも言うべきなのだろうか。校色っていうのはまあ、どこの野球部にも部員たちが作っているそれなりの「カラー」というものがあるわけだが、…ちょっと待て。アレか?俺のせいなのか?こういうアクの強いメンツばかり集まってくるのは?
少なくとも我が校の誇るこの実力主義に問題が無いのは確かで…そのお陰で俺は一年生でレギュラーの座を射止めることが出来たし、周りなんか本当に「使えるやつ」ばかり揃っているので野球をやるのが楽しくて仕様がない。
俺はもうこの野球部を――恥ずかしながら――、誇りに思っていると言っても良いだろう。
しかし、いざ各々の部員たちの顔を思い起こしてみると…正味な話、野球の腕ばかりに長けたならず者が集まった感は否めない…。
眼帯したピッチャーとか何時も女はべらせてるキャッチャーとか、すごい悪魔顔のも居たしな。
去年なんかやけに生意気そうな子供と鼻水垂らした小僧が入部してきて流石の俺も一瞬不安を感じたが、結局そいつらがレギュラーになった…。
憎まれっ子、世に憚る部だ。
まあ俺もそういうのが好きなんだけどな。あぁ、やっぱり俺のせいか。

しかし今年、この春、それを上回るのがやって来た。
去年などまだ良かった。

ソイツはいきなり入部試験で帥仙からホームランをかっ飛ばした。
スラリと高い背に赤い髪、切れ長の瞳で「いかにも目立つ」ガキ。新入生のくせにフーセンガムなど噛みながらグラウンドに入ってきやがって目立ちまくりだ。こんなところで目をつけられたいのか?理解しがたい。
だがしかし、そんな俺の考えをよそに、ヤツはあっさりと第一球を真芯で捉えると、いきなり場外に弾き返したのだった。
快音が埼玉の空に消えていく。

「あ〜〜ららァ、入っちゃいましたよォ。きれるかと思ったんスけどね。…詰まってたんですけど、風っすよー。ハハハ〜。」
一応言っておくがあからさまに風など吹いていない。
ヤツの打った球は美しい弧を描きながら三塁側ギリギリの青空に吸い込まれていった。
グラウンドはもう水を打ったように静かになり、ヤツの減らず口だけが響く。
その実力はもう疑いようもなかった。…間違いない逸材だ。
スイングは随分綺麗だし、背が高いのでパッと見最近まで中学生だったとは考えられない風貌だが…そう思いながら見ていると、向こうも気付いたようだった。
―――遠間だったのでハッキリとは分からない。けれどそうしてちょっと首を傾げたかと思うと俺の方を見ながらソイツは、……不適に微笑ったのだ。

挑発するように。

(とんでもないガキだ。)
俺が凍りついている間にヤツはフーセンガムを噛んだり膨らましたりしながらさっさとベンチに戻っていった。
「すごいコが入ってきたよう」
隣で白春が驚嘆の声をあげた。


帰宅の道すがら俺は考えた。早いうちに呼び出しでもかけて話そう、と。
打たれた帥仙が本当に死にそうなツラをしていたのはちょっと面白かったが、実力至上主義を謳ったところで、基本的にウチはバリバリの体育会なわけで、上下関係はしっかり有るからな…。
ここは、華武校野球部で一年生からレギュラーをはっていたこの屑桐無涯がその辺について、己の経験を踏まえて色々教えてやらなければならないところだろう。
文句のない打撃センス…御柳は野球部にとってこの先ずっと必要な存在になることは間違いないのだ。

 

―――数日後。

俺は屋上で御柳を待っていた。
時刻は正午――あの日よりもさらに天気は良く、まだ4月だというのにちょっと暑いくらいだ。さっさと話を切り上げたら中に入ろう。ヤツだって長話は嫌だろうからな…。

不意に背後の扉が開くと「遅くなってすんません」と一応謝りながら、御柳が屋上に出て来るところだった。
重そうな扉が音をたてて閉まる。
昼休みの喧騒が、遠くなった。