Super Utility Darling
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「LESSON 1」

 

 新宿駅東口。十時三十分前。
 何かあると、相手に気を使い十分前集合してしまうのが彼の常。その待ち合わせ相手が十二支高校野球部キャプテン、スーパーユーティリティープレイヤーで彼が最も尊敬する牛尾御門であるなら尚更だ。新宿という不慣れな土地柄も手伝って、待ち合わせより三十分も早くついてしまった。
 今日は二人きり、秘密の特訓をするらしい。ヘマをしたり、主将の足でまといになってはいけない……否応なしに、子津の身体に緊張が走る。牛尾キャプテンの話によれば、今日は、まず野球には欠かせないという「肉体的」「精神的」鍛錬を行う。その後、キャプテンが今までの野球人生の中でようやく見出したという、野球に欠かせない「何か」を教えて頂けるのだ。
 雲一つない晴天の空の下。彼は、小さな身体にふつふつと闘志が沸いてくるのを感じていた。
 
 話は数日前に遡る。
 合宿が終わり、自分一人が一軍に入れないと知った時。当然、と思う気持ちもあったが、やはり悔しさ、やりきれなさが募った。
 だから、監督がチャンスを与えてくれ、自分一人隔離されての練習が始まった時、絶対、音を上げて諦めることだけはしまいと誓った。
 五月。一年生が三年生に真っ向から勝負を挑んだあの試合。
 完膚なきまでに打ち込まれて、マウンドを降りることは避けられないだろうと思った。自分の野球人生はここまでだと諦めていた。
 そんな中、自分を支えてくれた仲間達。
 彼らに報いる為にも、自分は「ユーティリティー」なプレイヤーにならなくてはならない。
 そう思い、彼は、日々地面をえぐるような練習を重ねてきた。

 そんなある日。
 子津は今日も一人の練習を終えた後、ロッカールームで着替えていた。
 厳しい練習で、汗と泥に塗れたユニフォームが肌に貼りつき、気持ち悪くて仕方がない。苦労してそれを脱ぎ、その下に着ていたシャツやタンクトップも剥ぎ取る。彼の細い上半身があらわになった時、パタンとドアが開く音が響いた。牛尾だった。
 日々人一倍遅くまで残り、練習している子津である。当然、ロッカールームには彼しかいない。「お疲れ様っす」と、子津は軽く牛尾に会釈した。
 突如訪れた、牛尾キャプテンと二人の時間。
 彼は尊敬する先輩で、憧れの人物ではあるが、はっきり言って間が持たない。上級生であるし、緊張してしまうのは勿論だが、野球以外共通の話題もないからだ。
 子津はそそくさと下半身の衣服も取り去り、シャワーブースに逃げ込んだ。蛇口を捻ると、ちょっと熱すぎるくらいの湯が降り注いだ。彼の肌に落ちた水滴が艶かしく光る。
 彼は、しばらく目を瞑って温かいお湯に包まれる感触を楽しんでいた。激しい疲労の為、心地よいお湯の感触にうっかり眠ってしまいそうだ。その為、背後から近づいてきた人の姿に、彼は全く気付かなかった。

「子津君」
「あ、……って牛尾主将?…って、ちょっと、何してるんっすかっ!」 
 気付くと、彼は後ろから牛尾に抱きしめられていた。彼も勿論全裸である。二人の上に、熱いシャワーが降り注ぐ。
「キャプテン、何も同じブースに入らなくとも……右隣も左隣も、ブース空いてるんっすから、他んとこ入ったらどうっすか?……っわ、そんなとこ触らないで下さい!!!」
 胸のあたりを探られて、子津は思わず叫んでしまった。
「もう、子津君は分かってないなあ」
 牛尾は、子津をきつく抱きしめたまま、ふぅ、とため息をついた。
「子津君は、今のままの自分の野球じゃ駄目だと思ってるんだろう?」
「それは、勿論、そうっすけど…」
「正直言わせてもらうと、僕も、君の野球はまだまだだと思うよ。そして今のままの君の練習じゃ、全く効果は上がらないと思う」
「……!!!」 
痛いところを突かれて、子津は絶句した。
 正直、ここ最近全く上達をみない自分の球筋に焦りを感じていたのだ。自分の練習は本当にあっているのか。間違ってはいないのか。夜、眠りにつく前に、突然どうしようもない不安に陥ることはしばしばであった。
「でも、僕は君がそんなところで終わってしまって良い人間だとは思っていない」
相変わらず、子津の薄い胸を探りながら牛尾は続ける。
「僕だって、ここまでの能力を身につけるには、大変な努力が要った。勿論、まだまだ目指せる上があることはわかっているが。でも、ここまで来る過程で、得たものはある。それを君に伝授したいんだ」
 そう言って、牛尾は更にきつく子津の身体を弄り始めた。
「…キャプテン!な、何するんっすかっっ!……あ、そんなところ触らないで…、や、やめて……お願いだから…握らないで……」
「これは、身体の重心を一定に保つ訓練だ。こんなことも耐えられないようでは、一流のプレイヤーにはなれないよ?一流のプレイヤーに、なりたいんだろう?」
「そ、それは」
 牛尾はそれまで子津の身体の上を這っていた手を止めると、子津をこちら側に向かせた。彼の瞳を真正面から見据える。
「僕は君に、一流のプレイヤーになって欲しいんだ。迷惑と言うのなら、辞めるよ。でも、君には頑張って欲しいんだ」
「キャプテン……」
 子津は胸の中に熱いものがこみ上げてくるのを感じた。うだつのあがらない自分なんかにこんなに一生懸命になってくれるなんて……やるしかないっす!何としてでも、キャプテンの期待に応えたい!!!
「辞めないで下さい!ボク、どんなことでも耐えてみせるっす!続けてください」
「分かった。嬉しいよ、子津君」
 そう言うと、牛尾は手の動きを再開させた。今度は、牛尾は正面から艶やかに悶える子津を堪能した。それは子津が気を失ってしまうまで続いた。
 
 彼は、気を失ってしまった子津を、シャワーで清め身なりを整えると、ロッカールームの隅に置いてあるベンチに寝かせた。そのまま、ドアの外に立っているSPに連絡をとり、車を回すように指示をする。
「子津君、愛しているよ」
 彼は眠っている子津のまぶたにキスをした。
「こんなところで最後まで、っていうのは勘弁してあげる。最初は、やっぱり甘い甘い思い出にしてあげなきゃね……次は逃さないよ」
 牛尾は魔王のような、笑みを浮かべた。