Super Utility Darling
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2.

 

 それから16年の月日が経ちました。
  姫はその後何ごともなくすくすくと育ち、やがて年頃になると毎日のように求婚者がお城の扉を叩くようになりました。

 それもそのはずです、姫は仙人たちの祝福のとおりに、足が速く体が柔軟でダンスも上手な上に天気予報までこなせるすばらしい娘に成長していたのです。
 しかし、姫の一番の魅力はその優れた能力ではなく、別のところにありました。

 それは、心根の美しさです。

 姫は、王族の娘にも関わらす働き者で心優しく、頑張りやさんでした。国民はみんなそんな姫が大好きでした。
「ふふふ・・・エクセレント。私たちの育児がパーフェクトであることが立証されました」
 お妃様も姫の成長ぶりをみて大喜びでした。王様は姫より犬と遊んでいることのほうが多いのですが、それでもちゃんと姫のことを愛していました。


 そして、運命の日がやってきました。姫の16歳の誕生日です。


「辰羅・・・もとい、お母様、何かお手伝いすることはないっすか?」
 姫はお妃様に尋ねました。今、お城は姫の16歳の誕生日の準備でおおわらわだったのです。
「おや、姫。ありがとうございます。ですが貴方は今日の主役ですから、宴の支度が整うまで体力を温存していただいて結構ですよ」
 働き者の姫は祝賀会の準備をお手伝いしようと思ったのですが、日ごろ休むまもなく働いている姫を気遣ってお妃様はその申し出を断りました。姫はその調子でお城の方々を回り、手伝うことが無いかと聞きましたが、今日ばかりはみんな姫にお手伝いをたのむのは遠慮しました。


「あーあ、みんな忙しそうなのに手伝わせてくれないっす・・・」
 姫は結局、お城のどこでもお手伝いをさせてくれないので、一人でお城の端の塔まで来てしまいました。唯一暇そうにしていた父王は一人オセロをしていて、とても話し掛けられる雰囲気ではなかったので、本当に姫は一人ですることも無くなってしまったのです。


 仕方が無いので塔の中をぶらぶら見て回っていた姫は、使われていないはずの地下室から灯りが漏れているのに気が付きました。
「・・・誰っすか?」
 姫は地下室のドアを開きました。するとそこには薄汚い格好をしたおばあさんが一人、見たこともない機械の前に座って何か仕事をしていたのです。
「・・・ん? おめーこそ誰だよ」
 おばあさんはうざったそうに姫を見ました。
「あ、はじめまして。この城の姫っす」
「うっそぉ」
「・・・本当っすよ?」
「・・・はー、まさかアイツらがそんな・・・モミーの執念岩をも通すってやつか・・・」
「あの?」
「あーいやいや、何でもない。はじめまして、お姫さん。オレは見てのとおり囚人だ。いやなに、ちとコゲいぬの海パンん中にネズミ花火入れたのがバレてよ、このザマだ」
 それは手ひどい仕打ちだと姫は思いました。
「ここで何をなさっているんすか?」
「んー、強制労働ってとこかな。糸を紡いでるんだ。かれこれ二十年以上にもなるぜ・・・つーかアイツら、すでにオレを牢屋にブチ込んだってこと忘れてねぇ? なんか数年間看守を見てねぇ・・・あまつさえ十年くらい飯食ってねー気さえしてきた」
「・・・大変そうっすねぇ」
「そう思うんだったらちょっと変わってくんない? オレもう手が痺れちゃって」
 姫はあっさりそれに応じました。困っている人をほうっておけなかたし、なにより初めて見る機械に興味津々だったのです。
「えーっとどうやるんすか?」
「あー、オレもよくしらねー。テキトーにやればいいからさぁ」
 どきどきしながら姫が糸車をまわしはじめたそのときです。今まできちんと糸車に収まっていた針が転げ落ち、姫の手に深々と突き刺さったのでした!!


「あ・・・」
 姫は叫ぶ間もなくその場に倒れました。
「・・・・ん?」
 姫に仕事を任せて部屋の隅でエロ本を読んでいたおばあさんは、しばらくたってから姫が床に倒れているのに気がつきました。夢中で読みすぎだったのです。近づいて体を揺らしてみても、何の反応もありません。
「・・・・何だ、こりゃ? やばくねぇ?」
 おばあさんはしばし考えました。姫は親切でいい人ですが、こげいぬの娘です。それを死なせてしまったとあっては、もうどんな復讐をされるかわかりません。地味に呪われそうです。
「よし、逃げよう!!」
 地下室のカギが開いていたのをいいことに、おばあさんはマッハでお城から逃げました。

 


「大変です!! 姫が!!」
 塔の中で倒れている姫を発見して、お城中は大騒ぎになりました。お妃様は嘆き悲しみ、王様はおばあさんが逃げていることに気づいて兵士に山狩りを命じました。
「えーっ、やっぱ姫、死んじゃったの?」
 姫の16歳のお祝いに駆けつけていた仙人たちも、これにはびっくりしました。
「シャラップ!! 不吉なことを言わないでいただきたい。姫は眠っているだけで、死んでなどいませんよ」
 しかし百年も眠っているのでは、もうお妃様の生きているうちに姫の元気な姿を見ることはできません。そこで、仙人たちは顔をつき合わせて相談しました。
「HAHAHA〜,コリャまたエライ大変なことになったNe!!」
「ほんなこつ言うて笑うとる場合じゃなかとよ。俺らがなんとかせんと、お妃様も王様も可哀想たい」
「・・・・(こくこく)」
「うーん、どうすればいいのかな?百年眠り続けちゃうっていうおまじないを解くことは出来ないの?」
「不可能也。我のみならず鹿目の呪いも合わさっている為、その威力は一層増した故」
 みんな『それってやっぱあんたのせいでもあるんじゃん』と思わないでもなかったのですが、やっぱり黙っていました。
「U〜m、じゃこういうのはどうDa? お二人にはまた新しい子供を作ってもらって・・・」
「んなの無理に決まってんじゃん。あの子一人でも奇跡だっていうのに」
 その時、ずっと黙っていた一人の仙人が手をあげました。
「・・・・」
「え? 名案が有るの? 何?」
「・・・・」
「・・・お城全部を百年の眠りにつかせれば、姫が目覚めたとき元通り?・・・え、いいじゃん、それ!! シバくん天才!!」
 この意見には仙人たちはみんな賛成でした。そして、力をあわせてお城全体を百年の眠りにつくように魔法をかけました。


「みんなが眠っちょる間に泥棒が入ったら困るけんね。城をイバラで覆っておこう」
 お城を立ち去るとき、仙人の一人が魔法をかけました。するとお庭から、堀から、城壁からぐんぐんと太くて力強いイバラが生えてきて、あっという間にお城はとげだらけで誰にも近寄れなくなってしまいました。
「あ、そうだ!! ついでに一つサービスしてあげよっと!!
 姫は運命の相手のキスによって目覚めるでしょう!! これでお婿さん探しの手間も省けるよね!!」

 


 そうしてお城は鋭いとげと眠りに包まれたまま、何十年もの時が過ぎました。
『あの城の中には美しい姫が眠っていて、運命の王子が来るのを待っている』
 そんな噂がいつ頃からか流れ始め、美しい姫を一目みようと何人もの若者がお城に入ろうとしました。しかし、そのたび頑丈なイバラに阻まれ、お城の入り口にすらたどりつけませんでした。
 王子候補も泥棒たちもやがてイバラのお城を諦め、また何十年も時がたちました。